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札幌地方裁判所 昭和29年(行)7号 判決

原告 岩田一 外二名

被告 札幌通商産業局長

一、主  文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

二、事  実

原告ら訴訟代理人は、「被告が昭和二十九年三月二十日札通登第四九号をもつて胆振国試掘権登録番号第五八二四号の鉄鉱試掘権を取り消した行政処分はこれを取り消す、訴訟費用は被告の負担とする、」との裁判を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

第一、被告が請求の趣旨記載の処分をするまでの経過

(一)  訴外米陀元次郎、同小野忠吉、同長谷川進一は、米陀を代表者として昭和二十五年八月十日被告に対して胆振国白老郡白老村および幌別郡幌別町にわたる三百一ヘクタール五十アールの地域に硫黄試掘権設定の出願をし、同出願は被告受付番号札通二五試第一二六一号(以下単に、二五試第一二六一号、と略称する、)として被告に受理された。一方原告ら三名は、岩田一を代表者として昭和二十六年五月六日鉱業法第十六条にもとずき、被告に対して前記二五試第一二六一号の出願鉱区と一部重複する胆振国白老村地内の二百七十七ヘクタール四十アールについて硫黄と異種の鉱床中に存する鉄鉱を目的として試掘権設定の出願をし、同出願は被告受付番号札通二六試第八一七号(以下単に、二六試第八一七号と略称する。)として受理された上許可され、昭和二十七年七月一日鉄鉱試掘権第五七四一号として登録された。そこで訴外米陀は、二五試第一二六一号が先願であるにもかかわらず後願の二六試第八一七号が優先してその出願を処分されたことを不服として通商産業大臣に対して異議の申立をしたが異議申立期間経過後のため却下されたので、昭和二十八年二月頃被告に対して右と同趣旨の抗議をしたところ、被告は同訴外人の抗議を考慮して昭和二十八年五月二十日鉱業法第五十二条により錯誤を理由として原告らの前記鉄鉱試掘権第五七四一号を取消したため、原告らは再び出願の状態にかえつた。ところで訴外米陀らは、昭和二十八年二月六日被告に対して二五試第一二六一号の試掘出願地と重複して、金、銀、銅、鉄、硫化鉄鉱、硫黄等を目的として採掘権設定の出願をし、同出願は被告受付番号札通二八採第一七号(以下単に、二八採第一七号、と略称する、)として受理された。これに対し被告は、鉱業法第二十八条第一項の採掘転願の規定が適用される場合は、試掘出願地と重複してその目的となつている鉱物と同種の鉱床中に存する鉱物を目的として採掘権設定の出願をした場合であつて、二八採第一七号は二五試第一二六一号の目的となつている鉱物と異種の鉱床中に存する鉱物をもその目的としているから、同出願には同法条を適用すべきでないとしてその処分を留保したまま、昭和二十八年五月二十一日同訴外人らの二五試第一二六一号の出願を、同年五月二十三日原告らの二六試第八一七号の出願をそれぞれ許可した。しかして、原告らの鉄鉱試掘権は、昭和二十八年五月二十五日胆振国試掘権登録第五八二四号(以下単に第五八二四号と略称する。)として鉱業原簿に登録され、訴外米陀らの硫黄試掘権は、昭和二十八年六月十五日胆振国試掘権登録第五八二七号(以下単に、第五八二七号と略称する)として鉱業原簿に登録された。

(二)  しかるに、訴外米陀らは、右第五八二四号及び第五八二七号の各試掘権の設定許可ならびに登録の処分を不服として通商産業大臣に異議の申立をしたが、その要旨は、(イ)同訴外人らは二八採第一七号により、二五試第一二六一号の試掘出願地と重複してその目的となつている硫黄と同種の鉱床中に存する金、銀、銅、鉄、硫化鉄鉱および硫黄を目的とする採掘権設定の出願をしたのであるから、鉱業法第二十八条第一項を適用しなければならないのにかかわらず同法条を適用しないで、既に消滅したとみなされるべき二五試第一二六一号の出願を許可したのは違法の処分である、(ロ)鉄鉱と硫黄とは同種の鉱床中に存する鉱物であるのにかかわらずこれを異種の鉱床中に存する鉱物と認定し、同訴外人らの硫黄試掘権の鉱区に重複して原告らの鉄鉱試掘権設定の出願を許可したのは違法である、よつて第五八二四号ならびに第五八二七号の各試掘権を取り消して二八採第一七号に対する処分を求めるというにあつた。そして同訴外人らは右異議の申立を政治的に有利に解決しようとして改進党代議士斎藤憲三に依頼するところがあつた。その結果、昭和二十九年二月五日の衆議院通商産業委員会において同代議士は特に委員外発言を求め同党所属の同委員会委員代議士長谷川四郎と共に、被告の前記第五八二四号および第五八二七号の各試掘権の設定許可ならびに登録処分は違法であるから政府の責任を追及する旨の質問を行つて異議申立審査機関に対して政治的圧力を加え、この事実は当時の新聞紙上にも宣伝された、通商産業大臣は同訴外人らの右政治活動に影響を受けたものと推察されるが昭和二十九年三月一日異議申立に対し、次のような趣旨の決定をした。すなわち、その主文によれば、「被告のした第五八二七号の許可ならびに登録処分は鉱業法第二十八条第一項の規定に違反する処分であるからこれを取り消し、あらためて相当の処分を行うべきである、」とし、その理由として、被告が第五八二四号および第五八二七号の両鉱区内における鉄鉱と硫黄が異種鉱床に属するものと認定した以上、二八採第一七号は硫黄をもその目的としているから硫黄に関する限り鉱業法第二十八条第一項が適用されるので、第五八二七号の試掘権の設定許可および登録処分はこれを取り消し、あらためて相当の処分をすべきである。その処分に伴つて二五試第一二六一号の出願鉱区に一部重複し、かつ後願である第五八二四号の試掘権の設定許可および登録処分は同法第二十七条第一項の規定に違反する処分であるから取消すべきであるとし、なお、鉄鉱と硫黄は同種鉱床に属する鉱物であるとの申立理由に対しては、本件現地を工業技術院地質調査所に現地調査をさせた結果、第五八二四号の地域周辺には硫黄は存在しないから硫黄と鉄鉱とは異種鉱床に属すると認定し、さらに、第五八二七号の鉱区の硫黄については稼行できる規模の鉱床が存在するかどうか疑問であると認定した。

(三)  被告は、右決定にもとずいて、昭和二十九年三月二十日請求の趣旨記載のように原告らの第五八二四号の鉄鉱試掘権を取り消し(以下、本件取消処分という)た。右処分の通知は昭和二十九年三月二十七日原告らに到達した。

第二、しかしながら、被告の行つた本件取消処分は次の理由によつて違法であるから取り消されるべきである。

(一)  鉱業法第二十八条第一項は、その条文の文理上明らかなように、試掘権出願人がその試掘出願地と重複してその目的となつている鉱物と同種の鉱床中に存する鉱物を目的として採掘権の設定出願をした場合に限つて適用されるのであつて、採掘権の設定出願が試掘権の設定出願の目的となつている鉱物と異種の鉱床中に存する鉱物を目的としている場合にはその適用はないのである。すなわち、同法条は、試掘権の設定出願人が出願の後その許否の処分前にその試掘出願を採掘出願に改めようとして転願をした場合は、それが他の出願人の利益を害せず又悪用のおそれのない場合に限りその転願は当初の出願に代るものとして取扱い、出願人の願意を尊重してその利益を保護しようとする趣旨にもとずく規定であることはいうまでもないところであつて、同法条の出願の場合には同法条の構成要件がげん格に遵守されるべきであるから、その出願の許否はいわゆる覊束的行政処分に属するのである。しかるに、二五試第一二六一号は硫黄を目的とし、二八採第一七号は硫黄のほかにこれとは異種鉱床に属する鉄鉱、金、銀、銅、硫化鉄鉱等をも目的としているから、鉱業法第二十八条第一項の規定する構成要件を充足していないことが明白であつて、右出願は採掘転願としての効力を発生する理由がないのである。このような場合、被告は同訴外人らに対して鉱業法第百八十二条によつて補充修正命令を発し、二八採第一七号を硫黄のみを目的とする採掘出願に修正させることによつて適法な出願となるのであるが、右補充修正命令は同法第百八十二条の規定によつても明らかなように、被告の自由裁量規定であるからこれを命じないからといつて被告になんら違法はない。しかしのみならず、同法条の補充修正命令は善意無過失の出願人を保護するための規定と解せられるから悪意をもつて瑕疵ある出願をした場合には同法条の適用はない。すなわち、訴外米陀らは、前述のように、昭和二十五年八月十日二五試第一二六一号をもつて硫黄試掘権の設定出願をしたが、通商産業大臣の前記決定にも明らかなように右出願鉱区においては稼行できる規模の鉱床が存在しないのに反し、それより遅れて昭和二十六年五月六日原告らが二六試第八一七号をもつてした鉄鉱試掘権の設定出願が極めて有望であり十分の稼行価値があることを知るや同訴外人らは先願者である地位を利用して原告らの鉄鉱試掘権を奪取しようと企て、二八採第一七号が出願の当時既に被告によつて硫黄と鉄鉱とが異種鉱床中に存する鉱物であると認定されて原告らの第五七四一号の鉄鉱試掘権が設定登録されたことを十分認識しながら、故意に硫黄と異種鉱床に属する金、銀、銅、鉄、硫化鉄鉱をも含めて採掘転願をしたものであるから、二八採第一七号の出願に対しては補充修正命令を発する余地がないものである。仮りに二八採第一七号の出願に対して補充修正命令を発することが許されるとしても、右命令による補充修正が行われた時に始めて二八採第一七号の出願に対して鉱業法第二十八条第一項が適用されるものといわなければならない。なんとなれば、同法第百八十二条は同法第百八十四条第三号との関係において重要な意義があるのであつて、同法第百八十四条第三号によれば、同法第百八十二条第一項による修正を命ぜられた者がその指定期間内に修正又は補充をしないときは通商産業局長は鉱業権設定出願を却下しなければならないと定めているから、修正される以前においてはその出願は不適法なもので却下すべきものに該当し、修正が行われることによつてその時始めて適法となり、出願の効力を発生するものと解せられるからである。したがつて、被告が当初二八採第一七号に対して補充修正命令を発しないでこれを無視した処置こそ適法妥当であつて、なんら違法或いは錯誤をもつて律せられるべきものではない。右のように、二八採第一七号の出願は鉱業法第二十八条第一項の採掘転願としての効力がないのであるから、これを同法条による有効な出願であることを前提とする被告の本件取消処分は違法である。

(二)  被告は、前記通商産業大臣の決定に拘束されて本件取消処分を行つたものであるが、その決定の主文によれば、同訴外人らの第五八二七号の硫黄試掘権を取り消してあらためて相当の処分を行うべきである、とあるのみで、原告らの鉄鉱試掘権に対してはなんら取り消しを命じていない。しかるに被告は、右決定の主文に掲記されていない原告らの第五八二四号の鉄鉱試掘権を取り消したことは違法な処分というのほかはない。

(三)  原告らは、第五七四一号および第五八二四号の鉄鉱試掘権の設定以来、その試掘鉱区について鉱業法第六十三条による施業案、同法施行規則第三十二条による鉱業代理人の手続を終了したことはもちろん、室蘭営林署より昭和二十七年十二月八日借地許可、昭和二十八年八月三日支障木払下許可を得白老営林署より昭和二十八年五月七日借地許可、同年四月二十三日保安林解除を受け、同年八月十八日、同年十一月二十四日にそれぞれ支障木払下許可を受け、同地区は支笏洞爺国立公園地内にあるため北海道知事より昭和二十七年八月二十六日作業家屋道路設定許可を受け、更に、本鉱区所在地がカルルス観光協会および登別温泉観光協会に関係あるため同協会等から同年八月二十一日その作業承諾を求め、その他一連の手続のため二年二箇月の年月を要し、採鉱費、出願関係費、道路家屋建設費、トラツク購入、器材、雑費等に合計約七百六十万円を出費し、原告らの全事業生命を本件鉱区にかけてあらゆる障害を克服して昭和二十八年十月からようやく操業の段階に入り、昭和二十八年中に約千六百余噸を富士製鉄株式会社室蘭製鉄所に売渡し、昭和二十九年の融雪を待つて本格的に操業に着手し、昭和二十九年の生産計画一万六千五百噸出鉱を達成すべくその作業担当者に莫大な操業準備金を既に交付しているので、被告のした本件取消処分により原告らおよびその労務者三十数名の被る損害は甚大なものがあり、原告らはまさに破局の運命に立ち至るばかりでなく、鉄鉱石の輸入削減が要望されている今日、その生産中絶による国家的損失もまた計り知ることができないものである。

ところで、行政処分に法律上の瑕疵がある場合においても処分庁は必ずしも常に自由にこれを取り消し得るものではない。行政処分が一たん有効にされた後にこれを取り消すことは既存の法律秩序を破壊することになるから、これを是認する正当の理由がなければ取り消しは許されないことはいうまでもない。特に国民の義務を免除し又は権利を設定した処分についてその義務を復活しその権利を消滅されるところの取消処分は、それを取り消すことの公益上の必要がその取消によつて国民が受ける不利益よりもはるかに重大である場合に限つてこれを許すものであることは疑の余地のないところである。このような見地に立つて本件取消処分の適否を考えるに、たとえ被告のした原告らの鉄鉱試掘権設定出願の許可処分に瑕疵があり、それが取消の原因に該当するとしても、取消によつて被る原告らの不利益損害が前述のように甚大である以上、これを取り消すことは許されないものであるから、敢えてこれを取り消した本件取消処分は違法というべきである。

以上の次第であつて、被告がした同訴外人らの二五試第一二六一号の出願に対する許可処分および原告らの二六試第八一七号の出願に対する昭和二十八年五月二十三日附の許可処分は、いずれも適法なものであつて、なんらその処分に鉱業法第五十二条に規定するような錯誤は存在しないのであるから、本件取消処分の取消を求める。

さらに、被告の本案前の抗弁に対する主張として次のとおり述べた。

(一)  本件の訴は、元来鉱業法第百七十一条により通商産業大臣に異議の申立をして、その決定を経てから提起しなければならないものであるが、前述のように右異議の申立によつて時日を経過するときは、原告らは計り知ることのできない損害を被る虞があり、かつ、被告のした本件取消処分は前述のように訴外米陀らの異議申立に対する通商産業大臣の異議申立決定にもとずくものであつて、原告らが更に同大臣に異議の申立をしても同一の結果を見ることは明らかである。したがつてこのような場合には異議の申立をして、その決定を経ないで訴を提起することができる正当な事由があるものと解すべきであるから本訴は適法である。

(二)  仮りに、右の主張が理由がないとしても、原告らは昭和二十九年四月二十三日本件について通商産業大臣に異議の申立をし、昭和二十九年五月二十五日聴問会に出頭して陳述を行つたが、右異議申立後三箇月を経過した昭和二十九年七月二十二日に至つてもなんらの決定がなされていないから、異議申立に対する決定を経ないで本件訴を提起したという点の瑕疵は治ゆされたものというべきである。

被告指定代理人は、本案前の抗弁として、「原告らの訴はこれを却下する、訴訟費用は原告らの負担とする、」との判決を求め、その理由として、本訴は、原告らが通商産業大臣に対し申し立てた本件取消処分に対する異議につき、その決定を経ないで提起されたものであるから、行政事件訴訟特例法第二条に違反して不適法である、と述べ、

本案について、主文同旨の判決を求め、答弁として次のように述べた。

原告ら主張の請求原因事実中、昭和二十五年八月十日訴外米陀らの被告に対する二五試第一二六一号硫黄試掘権設定出願が受理されたこと、昭和二十六年五月六日原告らが被告に対して二五試第一二六一号の試掘出願鉱区に一部重複して二六試第八一七号の鉄鉱試掘権設定出願をして受理されたこと、昭和二十七年七月一日二六試第八一七号の出願が許可されて鉄鉱試掘権第五七四一号が設定登録されたが、昭和二十八年五月二十日鉱業法第五十二条によつて取り消されたこと、昭和二十八年二月六日訴外米陀らが被告に対し、二五試第一二六一号の試掘出願鉱区に重複して、金、銀、銅、鉄、硫化鉄鉱、硫黄の採掘権設定出願をし、二八採第一七号として受理されたこと、これに対し被告は、二八採第一七号は二五試第一二六一号の出願の目的となつている硫黄と異種鉱床に属する鉄鉱をもその目的としているから、鉱業法第二十八条第一項を適用すべきでないとしてその処分を留保したまま、昭和二十八年五月二十一日二五試第一二六一号の出願を許可し、昭和二十八年五月二十三日二六試第八一七号の出願を許可し、二五試第一二六一号は第五八二七号として、二六試第八一七号は第五八二四号としてそれぞれ登録されたこと、訴外米陀らは、右許可および登録処分を不服として通商産業大臣に異議の申立をしたところ昭和二十九年三月一日同大臣は、原告ら主張のような趣旨の決定をしたこと、および原告らがその試掘鉱区について鉱業法第六十二条による施業案、鉱業法施行規則第三十二条による鉱業代理人の続手を終了したことはいずれもこれを認めるが、その余の主張事実はこれを争う。

原告らは、訴外米陀らの二八採第一七号の出願は鉱業法第二十八条第一項の転願としての効力がないと主張するけれども、同訴外人らは二五試第一二六一号をもつて同一鉱区について硫黄の試掘権設定出願をしていたのであるから、二八採第一七号をもつて金、銀、銅、鉄、硫化鉄鉱等の採掘権設定出願をした時に、硫黄については採掘転願があつたものとみなされる訳である。しかるに、被告は、二八採第一七号の出願に当り、その目的とされた鉱物の内鉄鉱と硫黄とは異種鉱床に属するものであることを認識していたので、このような採掘出願については鉱業法第二十八条第一項の適用がないものと誤解し、第五八二四号および第五八二七号の各試掘権の設定許可および登録処分を行つた。したがつて、被告の法律の錯誤にもとずく右処分の結果、原告らの二六試第八一七号の出願に対して昭和二十八年五月二十三日にされた許可は鉱業法第二十八条第一項および第二十七条第一項によつて優先権を認められるべき訴外米陀らの二八採第一七号の出願に対する許否の処分前に行われたことになり、このことは同法第二十七条第一項の規定に違反するのでその違法な点を是正するために同法第五十二条によつて第五八二四号および第五八二七号の各試掘権を取り消したものであるから、本件取消処分はなんら違法なものではない。

次に原告らは、同法第百八十二条の補充修正命令によつて二八採第一七号を適法な出願にさせることができ、それによつて補正された時に始めて出願の効力を発生すると主張するけれども、同法条の規定は鉱業に関する出願、申請および届出の書面ならびに図面が完備していないとき、すなわち、出願に関する書面が形式上不十分又は誤まつている場合に、これを補正させることによつてその出願を右のような些細な瑕疵により効力を失わせることがないようにするためのものであつて、その瑕疵ある出願が本来不受理又は却下すべきものである場合にはもはや同法条の規定により救済することはできないのであつて、二八採第一七号の出願にはなんら形式上の不備は認められないのであるから、同法条による補正の対象とはならない。したがつて、硫黄については鉱業法第二十八条第一項の要件を具備しているのでこれについては採掘転願の効力が認められるのであるから、同法第百八十二条を適用する余地なく、他方他の異種鉱床中に属する鉱物については同法条により補正して採掘出願として効力を生ずることができないのであつて、これが補充修正命令を発する余地は全く存しないといわなければならない。したがつて、補充修正命令を前提とした原告らの主張は理由がないというべきである。

なお、訴外米陀らの二八採第一七号の出願の効力は同訴外人らの悪意によつて左右されない。すなわち、被告が硫黄と鉄鉱は異種鉱床中に属すると認定した以上、二八採第一七号は硫黄についてのみ採掘転願の効力を発生し、鉄鉱にはおよぶ余地がないのであるから、同訴外人らが原告らの鉄鉱試掘権を奪取するということはあり得ないことである。(各証拠省略)

三、理  由

原告らの本件訴に対し、被告は、本案の抗弁として、原告は本件取消処分について異議の申立に対する決定を経ていないから本訴は不適法であると主張するので、先づこの点について判断する。

被告がした第五八二四号の鉄鉱試掘権の取消処分の通知が昭和二十九年三月二十七日原告に到達したこと、原告らの通商産業大臣に対する右取消処分の異議が同年四月二十三日頃申し立てられたこと、およびその日から三箇月を経過するも、これに対し決定がされないことはいずれも被告の明らかに争わないところであるから、被告において右事実を自白したものとみなされる。ところで、原告らが右異議申立前である昭和二十九年四月十三日本訴を提起したものであることは本件記録に徴し明白であるから、本訴は、行政事件訴訟特例法第二条但書に違背する瑕疵あるものといわなくてはならない。しかし、右異議申立の日から三箇月を経過するもこれに対する決定がなされていないこと前叙のとおりである以上、右期間経過と同時に前示の瑕疵は治ゆされ、結局本訴は適法となつたものと解するを相当とする。したがつて、被告の本案前の抗弁は理由がないからこれを採用しない。よつて進んで本案につき審究する。

昭和二十五年八月十日訴外米陀らが被告に対して二五試第一二六一号の硫黄試掘権設定出願をして受理されたこと、昭和二十六年五月六日原告らが被告に対し、二五試第一二六一号の試掘出願鉱区に一部重複して二六試第八一七号の鉄鉱試掘権設定出願をして受理されたこと、昭和二十七年七月一日二六試第八一七号の出願が許可されて鉄鉱試掘権第五七四一号が設定登録されたが、昭和二十八年五月二十日鉱業法第五十二条によつて取り消されたこと、昭和二十八年二月六日訴外米陀らが被告に対し、二五試第一二六一号の試掘出願鉱区に重複して金、銀、銅、鉄、硫化鉄鉱、硫黄の採掘権設定出願をし二八採第一七号として受理されたことこれに対し被告は、二八採第一七号は、二五試第一二六一号の出願の目的となつている硫黄と異種鉱床に属する鉄鉱をもその目的としているから、鉱業法第二十八条第一項を適用すべきでないとしてその処分を留保したまま昭和二十八年五月二十一日二五試第一二六一号の出願を許可し、昭和二十八年五月二十三日二六試第八一七号の出願を許可し、二五試第一二六一号は第五八二七号として登録され、二六試第八一七号は第五八二四号としてそれぞれ登録されたこと、右鉄と硫黄は異種鉱床に属するものであること訴外米陀らは右許可および登録処分を不服として通商産業大臣に異議の申立をしたところ、昭和二十九年三月一日同大臣は、その主文において、被告のした第五八二七号の許可ならびに登録処分は鉱業法第二十八条第一項の規定に違反するからこれを取り消しあらためて相当の処分をすべきであるとし、その理由として、被告が第五八二四号および第五八二七号の両鉱区内における鉄鉱と硫黄が異種鉱床に属すると認定した以上、二八採第一七号の出願は硫黄に関しては鉱業法第二十八条第一項が適用されるので、第五八二七号の試掘権の設定許可ならびに登録処分はこれを取り消し、あらためて相当の処分をすべきである。その処分に伴つて後願の二六試第八一七号の出願の許可および第五八二四号の登録処分は同法第二十七条第一項の規定に違反する処分であるから取り消すべきであるという趣旨の決定をしたこと、および昭和二十九年三月二十日本件取消処分をしたことはそれぞれ当事者間に争のないところである。

原告らは、訴外米陀らの二八採第一七号の出願は、鉱業法第二十八条第一項のいわゆる採掘転願としての効力がないと主張するので先づこの点について判断するに、鉱業権の設定は、出願、許可および登録の段階を経て完成するものであり、鉱業権設定出願がその成立要件を具備しないものであるときは通商産業局長によつて不受理処分とされるが、その成立要件を具備するときは通商産業局長はこれを受理しなければならず、受理によつて出願が有効に成立するものであることは論ずるまでもないところであるから、二八採第一七号が出願としての成立要件を具備しているかどうかということがその争点であるといわなければならない。しかして鉱業法施行規則第二十一条には出願を受理しない場合を規定しているが、その外同規則第四条、鉱業法第十七条に違反する場合および出願人が意思能力を有しない場合も当然不受理処分を受ける場合に該当するものと考えられる。ところで、本件の訴外米陀らの二八採第一七号の採掘権設定出願は、同訴外人らの二五試第一二六一号の試掘出願鉱区に重複し、試掘権の目的となつている硫黄の外に金、銀、銅、鉄、硫化鉄鉱をもその目的とするものであり、しかも、右鉄と右硫黄は異種鉱床に属するものである以上二八採第一七号は異種の鉱床中に存する数種の鉱物を目的としながら一個の採掘権設定出願でしたのであるから、鉱業法第二十一条第三項の規定に違反しているわけであるが、これに違反することは前記の出願不受理事項に該当しないこと明白であるから、他に同出願に不受理事項に該当する瑕疵あることを認めることのできない本件においては、同出願は採掘権設定出願として有効に成立したものといわなければならない。しかして、同出願が二五試第一二六一号の出願と全く別種の鉱床中に存する鉱物をその目的としているのであれば、同出願は二五試第一二六一号とは全然関係のない別個の出願として鉱業法第二十七条の一般原則によつて処理されること当然であるが、同出願は二五試第一二六一号の出願の目的となつている硫黄を含んでいるのであるから、同法第二十八条第一項のいわゆる採掘転願として有効に成立したものと解するのが相当である。けだし、二八採第一七号の右のような瑕疵は、出願人において自からこれを修正することができ、被告もまた同法第百八十二条の規定による修正命令を発することによつてこれを修正させることができるのであるし、また修正命令によつて修正させたとしても、同法第十六条の規定によつて、同一の地域の同種鉱床中に存する鉱物に対して二以上の鉱業権を設定することができないという鉱業法の一般原則が存する限り、他の出願人の利益を害する虞があるとは到底考えられないからである。元来、同法第百八十二条の規定する右補充修正命令は、既に有効に成立した出願の瑕疵を補正させる制度であつて、本来不受理となるべき無効な出願を有効な出願に転換させる制度ではないのであるから、仮りに原告ら主張のように二八採第一七号に対して補充修正命令の手続がなされていないとしても、また、訴外米陀らが二八採第一七号の出願当時硫黄と鉄鉱とが異種鉱床に属することを認識していたとしても、これらのことは同出願の成立に少しも影響のないことである。そうだとすると、同出願が鉱業法第二十八条第一項の出願としての効力がないとの原告らの主張はすべて理由がなく、かえつて、同出願は、少なくとも硫黄に関する限りいわゆる採掘転願として有効に成立していると認められるので、二五試第一二六一号の願書の発送の日時に二八採第十七号の採掘権設定出願をしたものとみなされる結果、二五試第一二六一号の出願は消滅したものというべきであるから、被告は、二八採第一七号の採掘権設定出願につき、出願人において自から前記のような修正をし、或は被告の修正命令に応じて修正したときは、進んでその許否の処分をなすべきであるし、若し、出願人において自から修正せず、また、被告の修正命令にも応じない場合には、右採掘権設定出願を却下するなど適当な処分をしなければならないのにかかわらず、かかる処分をしないで既に消滅した二五試第一二六一号の出願を許可し、これにもとずく第五八二七号試掘権の登録処分をしたことは、結局鉱業法第二十八条第一項に違反するものといわなければならないから、被告は同法第五十二条により第五八二七号試掘権を取り消し、かつ、その消滅の登録をし、あらためて二八採第一七号の出願について適当な処分をなすべきである。そうして、第五八二七号試掘権の取消処分に伴い、二八採第一七号の出願鉱区に一部重複し、かつ、後願である二六試第八一七号の出願の許可およびこれにもとずく第五八二四号試掘権の登録処分は、同法第二十七条第一項に違反する処分となるから被告は同法第五十二条により右処分をも取り消すことができるものというべきである。そこで、本件取消処分の適否につき考えてみるに、成立に争のない甲第一号証、原本の存在ならびにその成立に争のない甲第三号証および弁論の全趣旨によると、被告が前説示と同趣旨の見解に立脚する前記昭和二十九年三月一日附通商産業大臣の決定にもとずき、その頃第五八二七号試掘権を取り消し、かつ、その消滅の登録をしたこと、その後第五八二四号試掘権を、結局鉱業法第二十七条第一項の適用を誤つたものとして同法第五十二条によりこれを取り消したことが認められるから、前説示の理由によりその取消処分は適法であると判断せざるをえないのである。

原告らは、本件取消処分は、通商産業大臣の異議申立決定書の主文にもとずくものでなく、その理由中の判断にもとずくものであるから違法な処分であると主張する。しかしながら、前認定のように、被告は右決定にもとずき第五八二四号試掘権を取り消したのではなく、自発的に鉱業法第五十二条によりしたものであるから、右決定による取消を前提とする原告らの右主張は理由がないからこれを採用しない。

原告らはさらに本件取消処分によつて被る原告らの損害が甚大であるから、本件取消処分は違法である旨主張するのでこの点について判断する。本件取消処分が鉱業法第二十七条第一項に違反することを理由とするものであることは前認定のとおりである。そもそも、同法条は、鉱業権設定の出願が同一地域において競合した場合において、いずれを優先させるかについて国の自由裁量を許さず、また、出願人の資力、能力、経歴等の主観的条件に関係なく、出願日時の先後その他の形式的要件によつてこれを定め国民の全部に平等に鉱業に参加する機会を与えようとする原則を明らかにしたもので、鉱業法をつらぬく一大指導原理ともいうべき公益的な規定であると解されるから、これに違反して設定された鉱業権は、法律の錯誤にもとずくものとして、既得の権利利益を侵害することがあつても同法第五十二条に則りこれを取り消すことができるものと解するのが妥当である。したがつて、原告らの右取消処分により被る損害が甚大であるとしても、この一事をもつて直ちに右取消処分を違法ということができないから、原告らの右主張もまたこれを採用することができない。

よつて原告らの本訴請求は失当としてこれを棄却することとし訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項を適用した上主文のとおり判決する。

(裁判官 猪股薫 吉田良正 石垣光雄)

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